2008/02/05 (Tue) 全体として・後宮 −海野つなみ

「今から七百余年前、時代に翻弄されながらも
 恋に自分に正直に奔放に 生きた女性がいた。」 −裏面あらすじより


後宮 1 (1)後宮 1 (1)
(2006/05/12)
海野 つなみ

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『回転銀河』の次に時代物?!と、はじめは正直驚きました。

でも、よくよく考えると海野さんらしいです。
「読者」と、そしてもっと言えば「時代」が追いついて行かなければならない
創作者の存在は、大変貴重だとも思います。



:::: あらすじ ::::

古典『とはずがたり』を漫画化したのが、『後宮』全5巻です。
'07年11月に最終巻が刊行され、既に完結されています。

舞台は鎌倉時代、御深草院(ごふかくさいん)の後宮。

主人公は、大納言という位の高い父を持つ姫・二条(にじょう)

「その二条を四歳で御所にひきとり、
 十四歳で無理やり自分のものとした
 御深草院の想いとは?!」 −裏面あらすじより

つまり、鎌倉時代版・光源氏と若紫のお話。
ただし『源氏物語』の紫の上と違って、
二条は夫以外にも複数の男性を愛し、愛され生きた女性なのです。

したがって『後宮』で描かれるその半生は、波乱万丈そのもの。



:::: みどころ ::::

『後宮』には、三種類の「極」があると思います。


一、「静」と「動」

私は今まで、海野さんは「静」の作家だと思っていました。

描かれる出来事自体は些細だけれど、
それに対する感受性が鋭く、心理描写が優れているからです。

しかしながら、この『後宮』では
原作に従った激しい出来事という、「動」の側面が加わっています。

そして当然、持ち味の「静」の描写力も発揮され、
まさに息つく暇がない、濃厚な内容に仕上がっているのです。


二、「時代性」と「普遍性」

まず、鎌倉時代だからこその事柄があります。

二条の夫となる御深草院は、天上人なので
後宮に多くの妻を娶っています。
そして二条自身も、複数の男性と関係を持つことになります。

そのため現代ではあり得ないほど
多くの男女と、それぞれの心模様が入り乱れていくのです。
その有様が、素晴らしい台詞とモノローグで描きあげられています。

ですが、何百年前でも人間は人間。
彼らの思いは、現代に生きる者にも十分通ずるものなので
読んでいて胸が苦しくなるほどです。


三、「苦」と「楽」

二条と、彼女に関わる男性、その周辺人物はおしなべて
恋や、生きることの「苦しさ」に打ちのめされています。

海野さんの作品を読んで、
これほど重く、苦しく、やるせない気分になったことはありませんでした。
その点でも、『後宮』は「新境地」と言えるのではないでしょうか。

でもずっと苦しいばかりではありません。

従来作でも見られる「小ネタ」は健在で、時代ものだけに驚かされるネタも多く
まるで「トリビア」のようで、大変楽しませてくれます。

やっぱり、漫画を読む上で笑いは欠かせません。




:::: わたくしごと ::::


一、まとめ読みが好い

私ははじめ、1巻から発売される度に買い揃えていたのですが、
最新刊を読むときに、前巻までの内容を思い出すのが難しく
3巻まで出た時点で一旦揃えるのをやめてしまいました。

そして最近になって、海野さんの作品にハマり直したのを契機に
改めて揃えなおし、全編通して読んでみたところ
その面白さに気づくことが出来ました。

ちなみに、一晩でまとめ読みをしたので
夜の趣が感情移入に拍車をかけ、
読み終わってもなかなか気分を切り替えられませんでした。

その位、心を揺り動かす力のある作品なのだと思います。


二、ある程度流し読みが好い

古典が原作なので、読む上で
最低限の時代背景・政治・習わしの知識が要りますよね。
もちろん作中で、読み手のために砕けた解説が挿入されているのですが
真面目に全て覚えようとすると大変。

なので、基本的な人間関係さえ分かっていれば何とかなる!と
割り切って読むことにしたら、ずいぶん楽になりました。

ところどころで登場する和歌も、
取りあえず現代語訳を読み、気が向いたら古語部分も読む
という様式が、私には合っているみたいです。

古語も和歌も大好きなんですけど、やはり本筋を追うのが最優先ですね。


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